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松山地方裁判所 昭和39年(ワ)173号 判決

原告 羽藤柳吉

被告 国

訴訟代理人 村重慶一 外三名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事  実 <省略>

理由

本件土地(別紙第一目録記載の土地)につき、昭和三一年六月一五日原告が所有者新宅市太郎から所有権移転登記請求権保全の仮登記を受けたこと、原告が昭和三五年九月一九日松山地方法務局今治支局に対して右仮登記に基づく本登記申請の書類を提出し受理されたが、同支局登記官から「仮登記後に登記された抵当権者等登記上利害関係ある第三者の承諾書を本登記申請書に添付しなければならない」旨を指示されたため、同日右申請を取下げたこと、そして、当時本件土地の登記上右仮登記の後である昭和三二年一一月二八日に尾上義盛のための抵当権設定登記、及び昭和三五年七月二二日に右抵当債権に対する越智岩吉の仮差押登記がそれぞれ経由されていたことは、いずれも当事者間に争いがない。

原告の主張は、右登記官の指示が不動産登記法第一〇五条に基づく同法第一四六条第一項の規定の準用に関する解釈を誤つたものであるというに帰着する。

しかし、同法第一〇五条の立法趣旨及び解釈については、当裁判所は、被告の主張がいずれも正当であると考える。(但し、別紙(三)「被告の主張」の第一項中「最高裁判所にも……区々に分れていた。」との部分は除く。)これに反する原告の主張は、独自の見解を根拠とするものであつて採用できない。従つて、同法第一〇五条第一項、第一四六条第一項によると、所有権に関する仮登記に基づき本登記の申請をする場合、登記上利害関係を有する第三者があるときはその承諾書又はこれに対抗しうべき裁判の謄本を添付することを要し(なお、原告は、本登記が執行力ある判決によつて行なわれる場合には、同法第三五条第二項の規定によつて、右書類の添付を要しないとも主張しているが、右規定によつて添付を要しない書面は、同条第一項第四号の登記原因についての第三者の承諾書等であつて、同法第一四六条第一項の登記自体についての承諾書はこれに当らないから、右主張は誤りである。)、「登記上利害関係を有する第三者」とは、仮登記が本登記されることによつて、登記の形式上これに対抗できず損害を蒙ることになる第三者、すなわち、仮登記の後順位にある所有権その他の権利に関する登記権利者がこれに該当する。

そうすれば、原告が本件仮登記に基づく本登記申請をした際、本件土地の登記上、右仮登記の後順位である抵当権設定登記及び仮差押登記があつたのであるから、これらの登記権利者が「登記上利害関係を有する第三者」に該当することは疑問のないところであり、前記登記官が右各登記権利者の承諾書の添付について指示したことは、当然の措置であつて、何ら違法ではない。

よつて、右指示が違法であることを前提とする原告の請求は、その余の判断をするまでもなく、理由がないから棄却することとし、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 橋本攻)

別紙(一)(二)<省略>

別紙(三) 被告の主張

松山地方法務局今治支局登記官のなした措置及び法務省民事局長のなした通達は、適法であつて、過失を論ずる余地はない。

一、従来、仮登記に基づき本登記をする手続については見解が分れていた。即ち、例えば、甲乙間に仮登記があつた後、甲丙間に所有権移転ないし制限物権設定の本登記をした場合に、乙が仮登記に基づき本登記をするには、どういう手続をとるべきかという点について、第一説は、甲乙間の本登記を抹消した後に、甲乙間の本登記をなすべきであるとし、第二説は、甲乙間の本登記をした後に、甲丙間の登記を抹消すべきであるとし、第三説は、双方を同時になすべきであるとしていた。判例は当初第一説によつたが、(たとえば、大判大正四年五月一四日民録二一輯七六〇頁、大正六年九月二〇日民録二三輯一四四五頁)、ついで第三説に移り(例えば、大判大正九年七月一〇日民録二六輯一〇六五頁、昭和三年七月二八日民集七巻六三五頁)、更に第二説に移つた(例えば大判昭和二年五月二八日民集六巻三一二頁、昭和八年二月一七日民集一二巻二三八頁)。最高裁判所にも第二説をとるものと(昭和三二年六月一八日民集一〇八一頁)第三説をとるものとがあり(昭和三二年六月七日民集九三六頁)、区々に分れていた。また登記実務上の取扱は、第二説によつていた(昭和二八年一一月二一日民甲二一六四民事局長通達)。

このような見解のうち、第一説については仮登記のみでは対抗力がない点に問題があり、結果的には、本登記を抹消して仮登記のままで放置するという不合理な結果を避けることはできなかつた。また、第二説については登記義務者は登記簿上の登記名義人でなければない点に問題があり、しかも、結果的に登記簿上、不動産の所有権の登記名義人が二名併存したり、或は無効となつた抵当権の登記等が存続するという不合理な結果を避けることはできなかつた。更に、第三説については、結果的には妥当な結果を招来するが、明文上当然にこのように解釈できるかどうか問題があつた。

二、そこで、このような問題点に一応の終止符をうち、不合理な結果を避けるために、仮登記に基づく本登記を申請する場合には、その本登記と両立せず、または本登記がされることによつて無効となる登記の名義人の承諾を証する書面、またはこれに対抗することのできる裁判の謄本を申請書に添付しなければならないこととするとともに、本登記がなされた場合には、右の両立しないか、または無効となる第三者の権利の登記を職権で抹消することにするため、不動産登記法一〇五条が設けられるに至つたものである。

三、原告は、登記抹消の場合の「登記上利害の関係ある第三者」と仮登記後の本登記をする場合の「登記上利害の関係ある第三者」とは、その性質を異にすることを前提とし、仮登記後の本登記をする場合の「登記上利害の関係ある第三者」が自己の権利が喪失するのに、本登記に承諾するはずはなく、かかる不能ないし著しく困難な行為を命ずることはできないから、不動産登記法一〇五条で準用される一四六条一項の「登記上利害の関係ある第三者」は、本登記によつて損害ないし不利益を蒙ることのない第三者の承諾書又はこれに対抗できる裁判の謄本を申請書に添付すべきであると主張される。

しかし、登記抹消の場合の「登記上利害の関係ある第三者」と仮登記後の本登記をする場合の「登記上利害の関係ある第三者」とが、その性質を異にすると解することはできないものである。なぜならば、登記が抹消されれば、抹消されるべき登記を前提ないし基礎として、その後の登記をした者は、その前提ないし基礎とした登記が抹消されることによつて、登記上不利益を蒙ることがあるのは当然であつて、このことと、仮登記後の中間処分者が、仮登記に基づく本登記によつて登記上不利益を蒙ることとは同様だからである。したがつて、不動産登記法一〇五条の「登記上利害の関係ある第三者」と同法一四六条一項の「登記上利害の関係ある第三者」とを別異に解すべき理由はないものといわなければならない。

四、なるほど、登記の抹消の場合には、「登記上利害の関係を有する第三者」は、登記の抹消を予見していない場合が多いのに反し、仮登記後の中間処分者である「登記上利害の関係を有する第三者」は、仮登記に基づく本登記があれば、中間処分が失効すべきことを予見している場合が多いであろう。しかし、登記申請の審査については、不動産登記法はいわゆる形式的審査主義を前提にしているわけであつて、「登記上利害の関係を有する第三者」が、登記の抹消等を予見していたかどうかは、登記官において審査する権限がないのはいうまでもなく、登記申請の手続においては予見の有無は問うところではないのである。また、不動産登記法一〇五条は、既述のように、仮登記に基づく本登記をなすについての手続の明確化と、公示の混乱を防止することを目的として新設されたものであつて、仮登記に基づく本登記がなされたときは、登記官が公示の混乱を防止するため中間処分の登記を職権で抹消することとされているのであるから、(不動産登記法一〇五条二項)、「登記上利害の関係を有する第三者」に不測の損害を与えないよう、予め「登記上利害の関係を有する第三者」の承諾書又はこれに対抗することのできる裁判の謄本を添付させることとされているのである。

五、原告は、仮登記権利者および仮登記義務者が本登記申請に協力している場合には、本登記申請当事者以上に保護する必要のない、しかもその承諾をすみことの困難な「登記上利害の関係を有する第三者」の承諾書を添付する必要はないと主張される。しかし、不動産登記法一〇五条が公示の混乱を防止するため、職権で中間処分の登記を抹消することとされている以上、これら中間処分者の立場を保護すべきであるのは当然であつて、同人の承諾書又はこれに対抗できる裁判の謄本を添付させることによつて、登記手続上仮登記権利者と中間処分者の保護との調和を図つているものである。また、中間処分者の承諾を求めることが困難ないし不能であるとの点については既述のとおり、登記の抹消の場合と同様である。

六、被告は、このような見地から、不動産登記法一〇五条で準用される同法一四六条一項の「本登記につき登記上利害の関係を有する第三者」とは、原則として仮登記に基づく本登記により登記の形式からみて損害を蒙るおそれがあると一般的に認められる第三者をいうのであつて、損害を蒙るおそれがあるかどうかは、登記上もつぱら形式的に決定されるべきものと考える。

七、なお、原告の主張される趣旨が、仮登記には本来対抗力がないのに、承諾書またはこれに対抗できる裁判の謄本を添付させるのは、理論上おかしいということを含むものとしても、本来仮登記の制度は、民法にはなく、不動産登記法においてはじめて認められたものであるから、その効力も不動産登記法において自由に決定できる性質のものであり、仮登記の効力は、不動産登記法七条二項に規定する順位保全の効力のほかに、同法一〇五条において一種の対抗力を認めたものと解すべきであつて理論上も不当ではないこというまでもない。

よつて、松山地方法務局今治支局登記官のなした措置および法務省民事局長のなした通達の内容はもとよ適法であつて、関係公務員の過失を論ずる余地はなく、爾余の判断をまつまでもなく原告の本訴請求は失当として棄却されるべきである。

以上

第一、第二目録<省略>

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